長野暮らしレシピ 素にして上質、趣味暮らし。
郷土料理研究家
横山タカ子さん
プロフィール
郷土料理研究家。長野県長野市在住。保存食を中心とした信州の食文化を研究すべく、各地でレシピや保存法の聞き取りを長年重ねている。NHK「きょうの料理」講師他、著書多数。信州の味を家庭に届けるため、料理教室や講演会も積極的に開催。
家は相棒、趣味は暮らし
日常を自由に楽しむ
夫の転勤に伴っていろいろな土地に暮らしましたが、残念ながら社宅は選べない。だから自分が快適に住める場所になるよう、いつも手を加え改造していました。次第に「暮らして楽しいな」という思いが湧いてきたんです。「暮らし」には食事、洗濯、掃除、ガーデニングなどいろいろな仕事がありますが、それらはすべて一つの職業として成り立っています。でも家でやるのは、私ひとり。だから、自分が心地良ければいいと考えました。そういう気持ちでいられる場所は家の中だけですからね。家は癒やしの場所であり、自分らしさに戻れる場所、そして明日に向かわせてくれる場所。そんな暮らしを「慈しんで育てていく」のは、私の趣味以外の何者でもないですね。 お裁縫も好きですが、私が一番幸せを感じるのは料理の時間。今夜はこれとこれを作ろうと考えて、それを夫とふたりで一緒に食べる。毎日、自分の手で自分の食べたいものを作れるのは、本当に幸せなことだなって思っています。料理には庭の葉っぱもよく使います。お菓子もわざわざ包みから出して、庭の柿の葉や朴葉に乗せて、自作の楊枝を添えて食べます。葉っぱを敷くことで季節感を取り入れられるし、彩りもいい。子どものころ楽しかったおままごとと同じで、まさに「大人のおままごと」。葉っぱは土に還るし、敷くことでお皿が汚れないから洗剤を使わずに洗えてエコだし、最高でしょ。なので、今の家を建てた時には、朴の木や柏など葉の大きな木や、柿や梅など食卓で使える木ばかりを植えて育てています。庭からちょっと取ってきた、そんな葉っぱだからまたいい。お料理に合わせて葉っぱを選ぶなんて、ちょっとワクワクしますよね。
風土にあった食材でつくる
一汁三菜が体の基本
2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。私たちの「普段のご飯」が食卓から消えつつあるので、早く保存しなければという思いで登録に至ったわけですが、未だに定着していません。小さなお子さんがいる家庭も子どもが食べたいものをつくるのではなく、ぜひ「一汁三菜」を取り入れてみてください。忙しい日は買ってきたコロッケに保存食のピクルスなど酢の物と煮物、そしてご飯と味噌汁があればいい。旬の野菜を入れればもうそれだけで美味しい。
信州は寒暖差が激しいので二毛作はできませんが、その分、お米や野菜が長い時間、土の中に根を張り、養分をいっぱい吸収しているから「完璧に美味しい」。味噌や漬け物など発酵食品が多いのも長野の特徴ですね。新鮮なものはもちろん、寒干し大根やお餅など保存食がつくれるのも寒さ故。信州の食材は寒ささえ調味料としている。まさに「素にして上質」。和食の基本の一汁三菜に、庭先の葉っぱをちょっと添えるだけで見た目も気分が上がります。何気ないことを楽しいと思える心が、本当の幸せにつながるのだと思います。